プラメナ・マンゴーヴァ ピアノ・リサイタル2009.9.9 [コンサートやライヴで感じたこと]
リスト:ピアノ協奏曲第2番イ長調から(エリザベート王妃国際コンクール2007)
クィーン・エリザベート(エリザベート王妃)国際コンクールで2位を受賞(07年度)したブルガリアのピニアスト、
今年29歳のプラメナ・マンゴーヴァ(Plamena Mangova)さんのリサイタルへ(2009.9.9紀尾井ホール)。
「熱狂の日」(ラ・フォル・ジュルネ)に出演していたといっても、日本での知名度はそれほど高くないためでしょう。
もう少しお客さんが集まっても良かったかな、という印象でした。というのも、手の内に入った、本性剥き出しの
ラヴェルやリスト、ヒナステラ・・・といった作品は、なかなか見事な演奏だっただけに。惜しいのです。
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会場に着いて驚いたのは、聴く心構えにしていたスクリャービンのソナタ9番「黒ミサ」(何というタイトルだろう!)が変更になっていたこと。それどころか、ショパンのバラード1番とラヴェル「道化師の朝の歌」以外は、当初予定されていたプログラムと全く違っていたこと! もっと驚いたのは、マンゴーヴァさんご本人が、8月に「交通事故に巻き込まれた影響により」曲目をやむを得ず変更した、ということである。詳しくは知らないが、何でも移動中(演奏会へ?)の車中で、交通事故に遭ったそうで、クルマは大破。事実、マンゴーヴァさんの隣に座っていた人は入院。幸いご本人は怪我はなかったそうだ…だから、本日はフィジカル的には全く問題がなく演奏されたように僕は見えたけれど…ここから先は、僕の勝手な憶測であるが、もしや「黒ミサ」と何か関係しているのだろうか? もしかして演奏会当日の移動? リハーサル? ともかくあの曲は、僕は、好きになれない。きっと、ピアニストは黒色の衣装で出てくるだろうと思っていたし(この日は確かに真っ黒なドレスだった)、演奏という「儀式」で、怪しげで危険な世界の道が現出しそうな気配。さながら、女性ピアニストはシャーマンのような「媒体」と化す…と憶測的妄想はやめておいて、シューマン「フモレスケ」とスクリャービン「黒ミサ」「練習曲」という当初のプログラムは、弾き手も聴く方も一種の「覚悟」と「覚醒」を必要とされるかもしれない。
シューベルトのソナタ4番イ短調で始まった演奏は、あんまりシューベルトらしくなかった、と僕は思う。「シューベルトらしい」とは何か? には答えようもないけれど、要するにシューベルトは彼女に降りてこなかった。ただ、これは僕の感覚に過ぎない。清らかな川の流れを思わす右手。非常に細かいペダリング…などものすごい工夫の痕跡がある。でも、ときどき「考えすぎ?」と、僕には感じられた。いや、これくらい考えて仕上げなければ、コンクールでの上位入賞は困難なのかな? とも思えた次第。もちろん、シューベルトについて、僕がわかっていない可能性もあり得る。
リスト編曲のシューベルト作品、「嵐の朝」「幻の太陽」「アトラス」は、マンゴーヴァさんと作品が精神的に肉薄している様子が、もう最初の一音から聴き手に伝わって、安心して聴かせてくれた。同時に、弾き手の顔つきが変わったのが面白い。ピアニストの表情は、次の作品では、豹変とまではいかないけれど、大きく変わる。メフィスト・ワルツは、手の内に入っただけではなく、歌のある大変立派な演奏で、トリルなども冴え渡っていて透き通る。ワルツ後半は、俄然本領発揮というより本性剥き出しで、弾き手が作品と同化していることが、否が応でも迫ってくる風。
休憩を挟んでのショパンは、練習曲嬰ハ短調op.25-7がまず心地良かった。彫りの深い且つ内省的な息遣いが、音楽として鳴り響かせるのに大いに役立つ。だが、バラード1番は、あまり僕好みの演奏ではなかった。けれど、こういうやり方、行き方もあることに納得させられた。特に、メノ・モッソ、ソット・ヴォーチェ(より少なく動いて抑えた声で)ではじまる第2主題の淡くてさらさら流れる様子に、僕は、はっとさせられたのだから。それは、まるで蒸留水のよう。それに、置石のように並べる低音の精緻な扱いにも。そう! ショパンほど好みが分かれる作曲家もいない。バラード終了後の拍手の大きさがそれを物語る。
ラヴェル「道化師の朝の歌」、ヒナステラ「3つのアルゼンチン舞曲」は当夜の白眉。マンゴーヴァさんが現在持てる美質全てが作品を通して余すところなく聴き手に伝わる。9.11(金)には東京フィルさんと、ラフマニノフのピアノ協奏曲第4番を演奏するようだけれど、甘い香りがまとわりつく名曲2番、名人芸が表立つ3番ではなくて、明確で厳しい様式と、火のような熱い感情が内包される4番は…当夜のリストやラヴェルから推察するに…このピアニストと最も相性が良さそう。
アンコールは、グリーグの夜想曲op.54-4、ショスタコヴィチの前奏曲op.34-20と34-6の2曲。ショスタコヴィチはCDにもなっていて評判通りの演奏(マーキュリー:MFUG517)で、大勢の聴き手が楽しんだのではないかな?
注目されて然るべきピアニスト、だと僕は思います。機会あれば、ぜひお聴きになってみてください。
9.11(金)東京フィルさんとの演奏(サントリーホール) で、マンゴーヴァさんの今回の来日公演は終わりのようです。
シューベルトが降りて…
分かるような気がします…うまく言えませんが…
by キャシー (2009-09-10 22:20)
凄く迫力がありますね。
交通事故に巻き込まれたと言う事ですが、
ご本人が無事で本当に良かったですね。
by youzi (2009-09-11 22:14)
iPodで流しています。(^。^)
by SilverMac (2009-09-11 22:34)
私はウォークマンですが、同じく流してますよ♪
by 再会 (2009-09-12 21:52)
さすがヒデキヨさん! マンゴーヴァさんをウォッチされてたんですね。
エリザベートの時にもネット上で楽しませてもらえましたが^^
オールラウンダーですねぇ。
どうやればそんなに多様性のある音楽を勉強できるんでしょう!
by 江州石亭 (2009-09-20 08:51)
江州石亭さん おはようございます
コメントありがとうございます
マンゴーヴァさんは 素晴らしい逸材です
江州さんさすが チェックがお早いですね!
逆に江州石亭さんから 僕はたくさん教えて頂いております
by ヒデキヨ (2009-09-24 07:05)