SSブログ

伊藤恵さんのピアノ・リサイタル 2010.4.29(木)紀尾井ホール [コンサートやライヴで感じたこと]

弁慶橋20100429.jpg

「シューマン生誕200年への素敵なプレゼント」

この日(「昭和の日」というのですね)の天気はとても気持ち良かった。
弁慶橋を渡ってホテルニューオータニ前、紀尾井ホールまでの道のり…。
強すぎず弱すぎない風が顔に身体に当たってきて心地良い。春薫る風。

舞い落ちた花びらが歩道の所々に埋め尽くされていて
その上を踏んでみる。
ふかふかの絨毯のような優しい感触が、靴底を通して伝わる。
歩くのも楽しくなる。

伊藤恵さん20100429.jpg



シューマン「クライスレリアーナ」6曲目(Sehr langsam B-dur とても時間をかけて)が、
とても印象に残った。

それは、深い黒色の世界。

ただ「黒い」のではなく、いうなれば、日本の伝統色の「蝋色」(ろいろ)。
黒漆の独特の光沢が鏡のような役目を果たし、黒色に映り込む世界が二重三重にもなる深さ。

ところが、黒の深い世界が、消炭色(けしずみいろ)のような灰の混じった色になった途端、
藍海松茶(あいみるちゃ)が持つ、やや黒みがかった青緑色に変化する…のを感じたら…、
今度は、松葉色(まつばいろ)の、松の葉のような深い緑色の世界が束になって出現する!
…とじっと目を凝らしていると赤色! 深紅(こきくれない)という濃く深い憧れの赤色を
感じさせる世界。しかも音を使って。音楽を用いて。ピアノを鳴らし…ね。

ともかくこのように響いたシューマンを、僕は初めて耳にした。
同時になぜこのような印象を与えるのか「理解」を試みようとした瞬間、色がす~っと抜け、
白く輝く山の頂きが心の眼前に。

ああ、白も色だったのだ…ことを知る…。
実に「異質」な世界に引き込まれた。

シューマンの「憧れ」に、クライスラーの「霊感」が感応したのが「クライスレリアーナ」。
それは、ファンタジー集だろうし、あからさまにしていないが、一種の霊感集ともいえる。
そして、同じく生誕200年のショパンに捧げられた作品だけれど…
パステル風の色彩がない。
色の原色のままをチューブから出して世界を描くという濃さ。ものすごく濃い。「濃い」。
一種の恋焦がれの濃さ。

もう一度書くけれど、「クライスレリアーナ」をこのようにきき、感じ取ったのは初めて。
伊藤恵さんのピアノから初めてきいた「クライスレリアーナ」の…恐らく本質の…世界。

順序が逆になるけれど、最初にきいた「こどもの情景」は、全てのものごとが、ピタリと
と決まってゆく。
「決まってゆく」とは書いても…、
「ON」と「OFF」。「0」と「1」。「○」「×」。「合う」か「合わない」…とか、何か、
デジタル風の「指標」と照らし合わせて「決まった」と感じるものではないのです。

「シューマン・リズム」。

伊藤恵さんのシューマンをきいていると、ときどきそう表現したくなるようなリズムだし、
テンポなのです。特に「こどもの情景」は、シューマンと妖精との協働作業で仕上がった
趣きのある作品。日常のくつろいだ生活の中にある規律正しいリズムや生活のテンポ。
自然の摂理に適った生活や人生を送る人が紡いだシューマンの「こどもの情景」なのです。
いとおしい風景がいっぱいに広がった。

伊藤恵さんは、これからどのように年を重ねてゆくのだろうか?

伊藤さんにもわからないかもしれないけれど、年を重ねてゆくことは幸せなことだな…と、
そう感じさせる音楽家がきかせてくれた「こどもの情景」。

シューベルトの「3つのピアノ曲D949」と「楽興の時D780 op.94」が、後半に並ぶ。

僕は、シューベルトは好きだけれど良くわからない。

ただ、どんな作品をきいてもいつも感じるのは、「カフェーでの喧騒」と「死に神」。

カフェーは喧騒というより、仲間同士のワイワイガヤガヤ楽しい時間と空間の「それ」。
「それ」と「死に神」は、作曲家の若い頃でも最晩年でも、割合が少し異なるだけで、
既に作品に同居しているのです。

だから、シンプルなメロディーや独特のハーモニーの中に恐怖を感じるときがある。

伊藤恵さんの演奏は「シューマンから見たシューベルト」という具合…と感じた。
これはこれで、別の魅力があると思います。

それにしても、伊藤恵さんは、何と素晴らしい心を持った音楽家だろう!

ききてとして、シューマン生誕200年を共に祝うことができて、感謝です。


nice!(10)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 10

コメント 4

ピカ

こんばんは♪
春風のように、演奏も心地よかったでしょうか。

伊藤恵さん、NHKのクラシック倶楽部で
演奏を聴いたことがあるような気がします…。
お名前に覚えがあるのです。
名古屋のご出身で、しかも誕生日が一緒とは~\(◎o◎)/!
美しさが私とは雲泥の差、お美しい方ですね(*^_^*)
これからは意識して、チェックするようにいたします。
by ピカ (2010-05-10 22:32) 

ヒデキヨ

ピカさん こんにちは 有難うございます

お誕生日が一緒とは!

大変お力のある素晴らしい音楽家です
機会あらば おききになってみてください

春風のように…という瞬間もありましたが
シューマンの音楽が 血のように「濃い」ことを知りました
by ヒデキヨ (2010-05-16 16:26) 

音楽っ子

ヒデキヨさん、こんばんは。

お写真、光が溢れていてとっても綺麗ですね☆素敵~!!

そして演奏会の素晴らしさも伝わりました。
音楽をたくさんの色で表現されておられて、色も多彩です~。微妙な色をたくさん知っておられますね。私が知らないだけなのか…。(汗)今回は国語辞典を引きたくなりました。(笑)

シューマンもショパンも生誕200年なんですね。お祝いですね~♪
素敵な音楽と音楽家さんについて教えていただき、楽しかったです!
主催される演奏会も近づいていますね。がんばってくださ~い!


by 音楽っ子 (2010-05-16 23:04) 

ヒデキヨ

音楽の情景を 何を使って譬(たと)えてみるか…
それが 僕の目下の課題なんです

もちろん 何をどう置き換えたって 言葉にした途端
音楽と同じにはなりませんが…

色 色々です
by ヒデキヨ (2010-06-14 22:54) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。